多くの企業経営者にとって、会計が最も頭の痛い経営課題になりつつある。技術者の方にはまだピンと来ないかもしれないが、日本の会計基準を国際会計基準(IFRS)に合わせる動きが進展しており、企業としてもその対応に迫られているのだ。単に会計業務だけでなく、生産や販売など様々な業務プロセスの見直しが必要になってくる。当然、情報システムの手直しも要求されてくるだろう。
そうした中、技術者の皆さんに近いところで、悲喜劇も起きている。工事進行基準の話を覚えていらしゃるだろうか。システム・インテグレーションや受託ソフト開発などの会計処理方法として、2009年4月から適用が始まった会計基準のことだ。 ITベンダーやユーザー企業の情報システム子会社は大変な労力をかけて対応したのだが、実はIFRSとの絡みで、もう廃止の可能性が取り沙汰されている。
工事進行基準は、システムが完成してから収益を計上する従来の会計基準と異なり、四半期決算のたびに、工事(=システム開発)の進捗度に見合うだけの売り上げや利益を計上する。正しい収益を計上するためには、事前にSI案件の収益総額を確定し、原価総額を正確に見積もったうえで、精緻なプロジェクト管理が必要となるので、適用に向けたITベンダーなどの負担は並大抵のものではなかった。
それもこれも、会計基準をIFRSに合わせていくためである。IFRSが工事進行基準を適用することを求めているため、日本として止むを得ず工事進行基準の適用に踏み切ったのだ。ところが、そのIFRSを策定している国際会計基準審議会(IASB)が「工事進行基準の適用を止めようじゃないか」と言い出したから、大騒ぎとなった。やっとの思いで工事進行基準に対応した企業にとっては、いったい今までの苦労は何だったのかという事態である。
IASB がそんなことを言い出したのには諸説あるが、やはり昨秋のリーマン・ショックで、投資家が企業の財務諸表が信頼しなくなったことが大きいだろう。考えてみれば当たり前だが、工事進行基準は、プロジェクトの進捗の判断にさじ加減を加えるだけで、簡単に売り上げや利益を操作できる“危ない会計基準”である。IASB が工事進行基準を止めようと考えても不思議ではない。
実際に工事進行基準の適用を止めるかどうかは、まだ予断を許さない。しかし、IFRSに対する日本の影響力は弱く、欧米各国の利害を反映して策定されている。このため今後、日本の会計基準をIFRSに合わせていく中で、似たような悲喜劇が繰り返される可能性は高い。もちろん情報システムもその都度、対応を迫られることになる。
したがって技術者の皆さんにとっても、会計の最新動向に関する知識は今や必須なものとなりつつある。そもそも会計はビジネスにおける“共通言語”。経営層や利用部門と会話し経営課題を抽出するうえでも、会計の知識は欠かせないはずだ。今後のシステムの在り方を考えるためにも、経営や利用部門から頼りにされる存在になるためにも、一度腰を据えて会計の勉強をしてみてはいかがだろうか。